ワーク・ライフ・バランスを加速させるには、個人の意識と企業の姿勢との両面から取り組むことが重要

企業や団体向けのワークショップや対話イベントにおいて、主に個人で取り組めるワーク・ライフ・バランスやダイバーシティの重要性について伝える活動をしておられる湯本理絵さんに、ワーク・ライフ・バランスについてお話いただきました。

 

あらためて、ワーク・ライフ・バランスとは

ワーク・ライフ・バランス

ワーク・ライフ・バランスは「仕事と生活の調和」と一般的に訳され、言葉自体はかなり知られきてています。

しかし、「仕事とプライベートのどちらか一方を選ぶこと」や「仕事は最小限にしてプライベートを思いきり楽しむもの」「女性だけのもの」と誤解している方が多く、本来の意味はまだあまり知られていないと感じています。

本来は生活を充実させることで仕事へのモチベーションに繋がり、仕事で力を発揮する…仕事と仕事以外の生活との好循環で人生を充実したものにするライフスタイルのことです。

その根底には、人生は仕事とプライベート(生活)それぞれ独立したものではなく、相互に影響しあうものであるという考え方があります。

男女の別に関係なく「家族の一員」「働く人」「社会(地域)の一員」としてそれぞれに主体的にやっていることや周りから求められていること(役割)に対して、「わたし」という一人の人がどのように関わるかを考え、行動し、好循環にすることでワーク・ライフ・バランスが実現します。

相互に影響しあうので、「仕事」か「生活」のどちらかが充実していれば良いのではなくどちらも充実していることが重要です。

例えば「家庭でケンカをした日はモヤモヤしたまま仕事に取りかかったものの、うまくいかなかった」ということや「とても良いことがあった日は仕事にも前向きに取り組めた」といった経験があるのではないでしょうか。

また、仕事で良いパフォーマンスを出すためには心身ともに健康であることが重要。そのためには両方の充実をめざすことが必要です。

ワーク・ライフ・バランスが重要である背景

なぜ最近「ワーク・ライフ・バランス」が重要だといわれるようになってきたのでしょうか。

高度経済成長期の日本は人口も増加し続け「たくさん作ればたくさん売れる」大量消費の時代でした。

たくさん作るためには時間もかけなくてはならず「24時間働けますか」というフレーズがCMに登場するくらい、働けば働くほど経済的に豊かになる、という社会でした。

そのため、長時間会社に居続け、組織人としての役割を果たすだけでも問題視されなかったのです。

日本においては、平成20年をピークに人口減少社会となり、ものが豊富にあるなかで人々が付加価値を求める時代へと変化しました。

企業は、消費者の多様なニーズに応えることや新しいアイデアを求められるようになり、かけた時間の多さよりもアイデアそのものの質が問われるようになったのです。

また、人口の減少に伴い労働者人口も減少することで、1人の人が社会のなかで担う役割が増えました。

例えば、共働き世帯数が1990年代後半から専業主婦のいる世帯数を超えていて、これまで家庭で家事や育児・介護といった役割を支えていた女性も社会で働き活躍する人が多くなっています。

多様な場面で役割を担う個人として、ワーク・ライフ・バランスの実現が不可欠となっています。

平成29年1月30日発表 国勢調査より

専業主婦世帯

企業にとってのワーク・ライフ・バランスのメリット

専業主婦世帯

独立行政法人 労働政策研究・研修機構 HPより

企業が従業員のワーク・ライフ・バランスを実現させると

「個人の事情を主張する人が増えて業務が回らなくなるではないか?」
「組織にとってはデメリットなのでは?」

と思う方もいるかもしれませんが、企業にとってもメリットがあります。

ワーク・ライフ・バランスは働く人々が個性を発揮して活躍し、会社を発展させる経営戦略のひとつといえます。

従業員それぞれのニーズに応えるのは一筋縄ではいきませんが、従業員のワーク・ライフ・バランスを尊重することで大きくは3つの好影響が考えられます。

1.従業員の効率アップ

多くの企業がまず実践している取組みは「残業をさせない」施策です。

残業できない環境になると、限られた時間の中で成果を出さなくてはなりませんので、従来の時間をかける働き方ではうまくいきません。

すると「無駄だけど慣例的にやっていたことを見直して簡略化、もしくはやめる」「さらに効率が良くなるためにどうすればいいのか」を主体的に考え、実践するきっかけとなります。

また無駄を省くことで本当に時間を掛けるべきところに時間を掛けることができるようになります。

さらに、時間ばかりをかけ、残業をする人が評価されるのではなく、時間当たりの生産性の高さで評価されるようになれば、子育て層や介護中の人など働く時間に制約のある人にとってはモチベーションアップにつながります。

2.多様な視点やアイデアがビジネスチャンスにつながる

個々のワーク・ライフ・バランスを実現しようとすると、従業員個々の価値観や生活の背景が異なるので、多様性が表れます。

また仕事以外で役割を担い、行動する生活者として得た経験や見聞は多様な視点となり、社会の多様なニーズを捉えるヒントとなります。

また、それぞれの場面で得たネットワークが仕事での新たな可能性につながり、ビジネスチャンスとなることも期待できます。

3.組織へのコミットメント

組織が従業員のワーク・ライフ・バランスを尊重する姿勢やメッセージを伝え、実践することで従業員の働きやすさが向上し、「この組織で働き続けたい」と感じ、貢献意欲が高まって仕事へのモチベーションも高まります。

例えば、育休を取るまではバリバリと頑張っていた女性社員が育休復帰後、急に意欲を失い、挑戦を避けてしまっている…といったケースは「時間をかけた人が評価されるなら、どんなに時間当たりの生産性を高めても意味がない」「残業ができないわたしは会社にとってお荷物だ」と思ってしまい、せっかくの能力や経験を活かすことを諦めてしまっている可能性があります。

ワーク・ライフ・バランスが実現でき、評価においても制約や自らの背景・事情で不利にならない環境なら、このような社員を減らすことができます。

また、モチベーションを高くもって働く人が増えると求人する際にそうした点をアピールすることで「こんな人達と働きたい!」と思う人が増え、優秀な人材が集まる可能性が高まります。

 

ワーク・ライフ・バランス実践例と実践を始めるための第一歩

企業にとっても、個人にとっても「ワーク・ライフ・バランスって、大企業だからできるのでは?」と言われることがありますが、中小規模の企業でも莫大な費用負担や手厚い制度が無くても取り組むことができます。

むしろ中小規模の企業だと経営において小回りが利くので、浸透が速いケースが多いです。

例えば、大阪にある従業員20名弱の機械工具商社で働くAさんは育休を取得して復帰しました。

復帰後、本当は時短勤務を利用したかったのですが事務担当は自分一人。

時短勤務をすると営業社員に負担や迷惑が掛かることが想定され、フルタイム勤務で復帰しました。

幸いにも実家は自宅近くにあり協力的でしたが、子どもが小さい頃は人見知りが激しく、母親である自分でないと手に負えないこともありました。

1日でも休むと、営業社員が電話などの対応で1名会社に留守番として残らなくてはならない上に納品書などの伝票が発行できない状況。

子どもの病気や急な発熱での保育園からの呼び出しにハラハラする毎日でちょっとリフレッシュに休みたいと思っても言いにくい状況でした。

復帰から3年後、体調を崩してしまったことや子どもの幼稚園転園をきっかけに平日の園行事に対応するために平日一日は仕事を休みたいと思うようになりました。

しかし、Aさんの会社で人員を1名増やすことは人件費増加の点で難しい上に事務スタッフを2名体制にすると業務量に対して人員過多になります。

そこで、Aさんは自分が休む日と引継ぎや申し送りのために一緒に働く日の週2日勤務のパート社員雇用を社長に提案しました。

パート社員を雇用することでAさんが月4日平日に休む日に社長や営業が社内に残らなくてもいいこと、Aさんの休日によって浮いた給与と少しの経費負担でパート社員の給与が賄えることをアピールしてAさんは社長から承諾を得ました。

求人募集を出したところそろそろ社会復帰をしたいが、まずは週1~2日から仕事をしたい、と希望する女性を採用することができました。

また、Aさんも会社にさらに貢献できるようになりたいと考えるようになり、平日の休日をリフレッシュや子どもの行事対応だけではなく、自己研鑽で仕事に活かすため、簿記2級取得に向けての勉強を始めました。

この事例では、Aさんからの働きかけで会社が変わりましたが、組織が従業員一人ひとりのニーズや生活の背景と向き合い、働き方を考えていくことが重要です。また、その時々で従業員の状況も変わりますから、その都度、状況に応じて変化させていくことも必要です。

 
事例に限らず、個人で実践するにはどうすれば良いか、第一歩となりそうなポイントを2つあげてみます。

1.「ソーシャル活動」への参画

職場と家庭以外の場を持つことが新たな見聞や経験、人脈を得るきっかけとなります。

ボランティアや趣味の集まり、自己研鑽として学びの場へ参加することや習い事を始めてみるのも有効ですね。

堅苦しく考えずにまずは参加してみることで気づきを得ることができ、リフレッシュもできます。

また平日の定時後にこれらの予定を入れることで定時内の業務の効率が良くなる効果も期待できます。

2.時間管理

自分の24時間の使い方を見直して、効率化できるところはないかを探してみましょう。

一覧表にしてみても良いと思いますし、手帳を活用するのも有効です。

なるべく細やかに行動を書くと時間の使い方を意識することができますし、効率化できるところが探しやすくなります。

また、就業時間を囲むなどしてわかりやすくし、定時以降にソーシャル活動やプライベートの予定を入れておくことと「何としてでも定時内に仕事を終わらせる!」という意識が起こり、業務時間内は集中して業務に取り組んで段取りがうまくいくようになります。

 

これからワーク・ライフ・バランスが浸透していくために重要なこと


今後社会の変化はスピードも早く、大きく変わっていくことは日常生活で何気なく感じていると思います。

時代の変化にあわせて対応していくアイデアや付加価値を提供し続けるためにはワーク・ライフ・バランスを実現し、生活者としての役割を担うことがますます必要となります。

また「近いうちに人生100年時代がやって来る」と言われ、長く仕事と関わることになるため、主体的に自分の働き方や人生について考え行動することがさらに重要となります。

ワーク・ライフ・バランス実現を加速させるためには個人の意識と企業の姿勢との両面からワーク・ライフ・バランスに取り組むことが重要です。

ただ、ワーク・ライフ・バランスを実現するプロセスに王道は無く、人の数、企業の数だけ多様に存在します。

ライフステージや時代の流れに合わせて価値観も変化していきます。

まずは一人ひとりが自身の人生のハンドルを握る個人であることを意識し、職場である企業の姿勢が変化するのを待つだけではなく、小さな一歩からで良いので実践し続けていきましょう。

すぐには実現が難しくても、実践し続けていると道が拓けてきます。

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