2025年7月9日、大阪・関西万博ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier 「WA」スペースにて、世界に向けて女性たちの挑戦や想いを発信する取り組み「グローバルプレゼンテーション」が開催されました。
この場には、地域や世界の課題に立ち向かう女性たちが登壇。
自らの活動を通して、未来を切り拓く姿を発信しました。
本記事では、その登壇者のひとりである甲田恵子さんのストーリーをご紹介します。
想いだけでは動かない現実、人もお金もシステムも揃わない状況——。
何度も壁にぶつかりながら、一つひとつ突破してきた甲田さん。
彼女は子育てや暮らしの困りごとを「頼り合い」で解決する地域共助の仕組みを、ゼロから形にしていきました。
「完璧じゃなくても前に進める」「できることから始めれば、社会はきっと良くできる」という強くてしなやかなメッセージを私たちに届けてくれました。
目次
- 甲田さんの活動内容と、始められたきっかけについて教えてください
- ここまで事業を続けてこられる中で「転機」になった出来事、あるいは乗り越えた壁があれば教えてください。
- 海外の方にも伝えられる、日本の「子育て文化」の良い部分はどういう点だと思いますか?
- AsMamaの強みはどういった点でしょうか?
- さらに広めていくために必要なモノ・コト・ヒトはどういったものでしょうか?
- 今後、AsMamaとして、また多くの引き受けられているお役目としても、さらに挑戦していきたいテーマ・ビジョンを教えてください。
- 今回、大阪・関西万博のウーマンズ パビリオンでグローバルプレゼンテーションに参加をされますが、どんな想いでこの機会に臨まれますか?
- これから何かを始めたいと思っている大阪市の女性たちへエールをお願いします
甲田さんの活動内容と、始められたきっかけについて教えてください
子育てや日常の困りごとを、身近な知人・友人、さらには地元の人や事業者と頼りあいながら解決できることで、一人ひとりの自己実現がかなう社会をめざすために、自治体や企業と連携しながら、地域ごとの”共助コミュニティ創生事業”を推進しています。
創業は2009年11月ですが、きっかけは、その年の1月にあった晴天の霹靂とも言える会社都合の退職でした。
それまでは野心的でキャリア志向が強かった私でしたが、リーマンショックの影響を受けた翌年、多数の企業がリストラ実施や倒産するというニュースを対岸の火事のように観ていたところ、当時勤めていた会社でも同様の発表があり、まさか自分がという思いでした。
もう一度、アクセル全開で再就職することも考えましたが、当時、子どもはまだ3歳。
仕事に奮闘するかたわら、全力で子育てに尽力しているものの、子どもと接する時間は理想よりもはるかに少なく、自分の生き方にも心のどこかで疑問を抱いていなかったと言えば嘘になります。
そんな時、会社都合で退職になった際には、再び国内外の企業のために、公私問わず全力で闘魂する覚悟を持つことはできませんでした。
そうした中、失業をきっかけに職業訓練校に参加したところ、育児や介護に携わりたい、携わらなければならない人たちが受講生の半分以上を占めていることを知りました。そして、人生の一時期に支援者がいないために、それまでに積み上げてきたものをあきらめざるを得ない人たちの存在を知りました。
一方で、日常に街なかに出る機会を得たことで、子どもが大好きな人や資格を持っている人が子育て支援の意欲を持ちながら、その思いを実現できていないことを知りました。
その時、支援があれば自分らしい人生を謳歌できる人と、支援することで自己肯定感や幸福度が上がる人の出会いの機会と頼りあえる仕組みをつくることで、日本の根本的課題(少子高齢化による日常生活の困りごと解決や担い手不足の解消など)が解決できるのではないかと思ったことが、私の創業のきっかけです。
ここまで事業を続けてこられる中で「転機」になった出来事、あるいは乗り越えた壁があれば教えてください。
毎日が壁です(笑)。
ですが、俗に言われる「人・モノ・金」は困りごとの典型で、凸凹が大きければ大きいほど、事業の路線変更や転機にもなります。
「人」で言えば、関わりたい人がとても多い中、安定した業務稼働を担保するために、フルタイムの社員を雇用し始めたタイミングが転機でしょうか。
一気に固定費があがったことで正直ビックリしましたが、その後、安定した経営体制を築くことができました。
「モノ」で言えば、当社は自社開発アプリを持っているのですが、社員全員がエンジニアではないため、良い開発体制が出来るまでに、いつのまにか数千万円、いや、億単位で投資していたことです。気が付いたら会社の資金が底をつきかけていることに気づき、卒倒しそうになったこともあります。
それでも、デジタルの可能性をあきらめきれずにいたからこそ、日本で唯一、アナログとデジタルの両方でコミュニティ創生に取り組んでいる会社となったことは、当社の強みだと思っています。
「金」でいうと、上記のフルタイム職員雇用のタイミングや、リターンを見込んで投資したシステム開発が見込み通りにいかなかった時に、たびたび冷や汗をかきました。
また当社は行政の受託事業も多く、年度を越えての集金になるため、年度末にはいつもキャッシュ・フローとにらめっこしています(笑)。
こうした経験を踏まえて、民間連携を増やしたり、今後は国内外で展開する別の事業モデル/収益モデルの推進も検討しています。

海外の方にも伝えられる、日本の「子育て文化」の良い部分はどういう点だと思いますか?
子育てに限らず、日本には「思いやり」や「たよりあい」、「持ちつ持たれつ」「子は宝」といった思想や文化があります。
アジア圏では似たような思想が多少見られるものの、欧米では、やはり赤の他人に子どもを預けるということは考えにくいですし、子どもは子どもで別人格と考える方が一般的です。
何かあった時に、信頼できるご近所に子どもを預けることが出来たり、おすそ分けやおさがりを通じて、ご近所もひとつのファミリーとして暮らせる安心感は、日本が世界に誇るべき文化だと思います。
AsMamaの強みはどういった点でしょうか?
AsMamaは、「子育てや暮らしの共助を当たり前の社会に」という理念に共感した人たちの集合体です。
つまりは、全国に、地元のことを自分ごととしてとらえ、地域課題を主体的に取り組む仲間がいる、ということ、これが最大の強みです。
もう一つの強みは、自社で開発したシステムです。
子育て支援活動や地域活動をアナログで取り組まれているところは数多くありますが、子育てや暮らしの困りごとはいつ起こるかわかりません。
そのため、信頼できる地域の人々、都合がつく知人や友人、ご近所さんをデジタルで探せる環境を提供しています。
日本全国を対象として知人・友人間で使う「子育てシェア」や、地域ごとに特化して子育てや暮らしを頼りあう「マイコミュ」のアプリは、登録料も手数料も一切無料ながら、全ての利用者の子どもの送迎・託児の依頼や、モノの貸し借り及びイベント内での事故等には、AsMamaが保険や保証をかけているので、万が一のケガや事故にも安心してご利用いただけます。
さらに広めていくために必要なモノ・コト・ヒトはどういったものでしょうか?
今は、積極的に社員採用を進めています。社員こそが当社の成長ポテンシャルです。
仕事と家庭の両立やバランスの取り方で、心がけていること・大事にしている考えはありますか?
特にバランスというのを考えたことはありません。
24時間仕事をしていると思われがちですが、子どもの学校行事は皆勤賞で出席していますし、高校までは毎日お弁当を作っていました。毎年、国内外の旅行にも行っています。最近の趣味はゴルフで、月に2‐3回はラウンドにも行きますし、ピラティスも始めました。
自分で自分の限界やバランスなどを考えず、300%になればいいじゃん、ぐらいの気持ちでやっています。ワークライフバランスというよりはワークアズライフという感じです。

今後、AsMamaとして、また多くの引き受けられているお役目としても、さらに挑戦していきたいテーマ・ビジョンを教えてください。
これまでAsMamaとしても、私個人としても多くの支援を受けて今日を迎えています。
海外への派遣チャンスをいただいたり、海外からの招待を受けたことなども、単に運が良かったというだけではなく、そうした学びや教えを、次世代に届けていくためであったと思います。他社の顧問や社外取締役なども、お役目をいただければ積極的に引き受けていきたいと思っています。
特に興味があるのが、教育やリレーションシップへの探求です。
今後は、お互いに助け合う共助の重要性を広める活動などにも取り組んでいくつもりです。
今回、大阪・関西万博のウーマンズ パビリオンでグローバルプレゼンテーションに参加をされますが、どんな想いでこの機会に臨まれますか?
世界の人口の半分は女性で、女性の特性としては、社会課題の解決や次世代を想う思いの強さがあると思っており、この場を通じて多業種の人たちとの出会いがあることが楽しみです。
関西万博が開催され機運が熟しておりますが、大阪市にはこれを機に思いをカタチにされたい方は多くいらっしゃると思います。
これから何かを始めたいと思っている大阪市の女性たちへエールをお願いします
そこで、世界へと一歩踏み出されたご経験から、今これから何かを始めたいと思っている大阪市の女性たちへエールをお願いします。
大阪生まれで18歳まで大阪で育ちました。
大阪人の大好きなところは、何にでもタイパ・コスパが大好きで、明け透けに言いたいことをいい、やりたいことをやることを誰かがとがめたところであまり気にしないところだと思います(笑)。
今こそ、その大阪人気質を発揮して、やりたいことを先延ばしにせず、なんとなく停滞してきたように思われがちな日本の経済や文化を牽引していくのが大阪人気質のある人たちなら、それはなんだか、とても明るくて楽しい未来になりそうだ、と思っています。
甲田 恵子
株式会社AsMama 代表取締役
- 大阪府生まれ。フロリダアトランティック大学留学を経て、関西外語大学英米語学科卒業。
- 1998年、省庁が運営する特殊法人環境事業団に入社。役員秘書と国際協力関連業務を兼務する。
- 2000年、ニフティ株式会社入社。マーケティング・渉外・IRなどを担当。
- 2007年、ベンチャーインキュベーション会社、ngi group株式会社に入社し、広報・IR室長を務める。
- 2009年3月退社。同年11月、子育てや暮らしを地域ごとに頼りあえるコミュニティやまちづくりを手掛ける株式会社AsMamaを創設し、代表取締役CEOに就任。
AsMama
AsMamaホームページ
総務省 地域力創造アドバイザー(PDF)