皆さん、ほめることは得意でしょうか?
海外と比べ、感情表現があまり豊かとは言えない日本で暮らしていると「ほめ上手になる」といっても意外と難しいかもしれません。
家庭や職場、友人との会話の中で「ほめる」「ほめられる」ということをマスターできれば、今まで以上に幸せで素敵な時間を過ごすことができ、人間としての成長にもつながっていきます。
そこで、交流分析という心理学の中のストローク理論を基に、皆さんにほめ上手になっていただくヒントをお伝えします。
交流分析とストローク理論
交流分析は1957年に精神科医であるエリック・バーンによって提唱された心理療法の一つです。
エリック・バーンはストロークを「他者の存在を認めてするすべての行為」と定義しています。
ストロークの語源は、英語の stroke 「なでる、さする」からきています。
例えば、朝、家を出てご近所さんと会ったとき、「おはようございます」と挨拶するとご近所さんも「おはようございます」と答えてくれます。お互いに相手の存在を認め、挨拶を交わします。これがストロークの交換をしたということになります。
挨拶ばかりでなく、たわいのないおしゃべり、賞賛の拍手など、交流分析ではお互いの存在を認め合って働きかける言動すべてを「ストローク」といい、生きるために必要な「心の栄養素」と呼んでいます。人はこの「ストローク」なしでは生きていくことができないと言っても過言ではありません。
ストロークの種類
ストロークは実はたくさんの種類があります。
(参考文献:特定非営利活動法人日本交流分析協会2級テキスト)
図を見ていただくとストロークには大きく分けて肯定的と否定的の2種類があることがわかります。
私たちがコミュニケーションをとるとき、大きく分けると笑顔や感謝などのポジティブなものと、批判や悪口などのネガティブなもの、2種類がありますよね。
そしてもう1つ、重要な概念があり、条件付と無条件です。これは肯定的・否定的のどちらかにくっつきます。具体例を挙げて説明していきます。
- 無条件×肯定的ストローク:存在自体・ありのままを認めるあたたかいストローク
例)赤ちゃんをなでる/がんばった自分をほめる/笑顔で「いってらっしゃい」と見送る - 条件付×肯定的ストローク:その人の行為や態度に対して認めるストローク
例)「100点をとってすごいね!」/「仕事が早くなったから助かるよ」/「ITに強いの、さすがだね」 - 無条件×否定的ストローク:結果にとらわれずに存在自体を否定するストローク
例)「バカ」と怒鳴る/いきなり腕をつかまれる/「大嫌い」とにらむ - 条件付×否定的ストローク:特定の失敗した行為や欠点について否定するストローク
例)「妹を泣かせたらダメだよ」/ 遅刻したことを怒る / 片づけをしないから叱る
条件付でも肯定的ストロークはうれしいものですが、条件付には実は弱点があります。
それは「良い成績だからお母さんにほめられる」「営業成績がよかったから上司にほめてもらえる」などの場合、いったん喜んでも、成績が悪かったら、営業成績が下がったら、と条件がなくなってしまうとストロークをもらえなくなるのではないか、と不安になります。
そういう意味では、無条件×肯定的は「○○だから」という理由はいらないので最強なのです!
無条件の肯定的は「人と自分は同じく愛される存在だ」という気持ちを強くします。そして、このストロークは出そうという意思があればだれでも出せる能力があります。惜しみなく与えることが人間関係を良好なものにします。
ストロークの概念を知ったうえで、具体的にほめることについて考えてみましょう。
無条件ストロークのほめる言葉
- 感謝する : 例)ささいなことでも「ありがとう」とこまめに言う
- 存在自体を肯定する : 例)いるだけで癒されます ○○さんといるとほっとする
- 非言語の態度をとる : 例)目があったら微笑む 相手の方を向いて話す
- 傾聴する : 例)相手の話を遮らずにひとまず聴く 相手の話を受け止める
- 価値観を受け入れてみる : 例)相手の考えを尊重する なるほど○○という考えがあるのですね
条件付より無条件の方がほめられた時、嬉しいと感じるはずです。そして、ほめることは言葉だけではなく、アイコンタクトやうなずきなどの表情や仕草でも表現ができます。
ほめるときのコツって?
ほめるにはまず語彙力を増やしましょう。
自分が言われて嬉しいほめ言葉を一度書き出してみるといいかもしれません。
ポイントとしては
- 人柄をほめる : 例)明るい、まじめ、気さく、優しい など
- 職場での仕事ぶりをほめる : 例)手際がいい、正確で速いね、がんばったね! など
- 相手の名前を入れてほめる : 例)○○さん、さすがです!○○さんみたいになりたいです
そして、結果より努力を認めてほめることも大切です。
日々のがんばったことや、大変なことを積み重ねた姿勢をほめましょう。プロセスをほめることで相手を笑顔にして、さらに意欲や努力を促すことができ、成長につなげていけるはずです。
ほめるときの極意
ほめるにはまず相手に興味を持つ姿勢が大切になります。
ほめたい!と思ったときは出し惜しみをせず、ぜひ素直に伝えてください。そして、人からほめてもらうときも素直に受け取るようにしましょう。
例えば、洋服をほめられたら謙遜するのではなく、「ありがとう、あなたにほめられて嬉しい」と返すようにしましょう。
そして、人に与えるだけではなく自分自身で自分をほめてみましょう。「よくがんばっているよ」「自分にご褒美でケーキを買って帰ろう」など、自分をいたわって優しくしてみましょう。
ほめる言葉はコミュニケーションの潤滑油!
ほめることが苦手な人は1日1回身近な人をほめるようにして、慣れてきたら少しずつほめる回数を増やしていくようにしましょう。そして、ほめ言葉のバリエーション、美しい、愛らしい、気配り上手、などの語彙を増やしていきましょう。
無条件の肯定的ストロークを多く使えるようにしていくことができれば、きっとあなたにも同じように良いストロークが戻ってきます。
ほめる力は周りを勇気づけ、モチベーションを上げることができます。自分の幸福感も上がり、自己肯定感も上がっていきます。思ってもいないことを言うのではなく、心から相手の素敵なところを見つけていってくださいね。
コロナ禍で残念ながら誰しもがストローク不足になっています。
ぜひ愛のある「ほめる」というポジティブなストロークで、周りも自分も幸せを感じられる環境にしていきましょう!
キャリアコンサルタント/交流分析士インストラクター
損害保険会社で8年勤務し、転勤族である夫との結婚を機に退職。その後全国各地の金融や行政等での勤務を経て、国家資格キャリアコンサルタントを取得。現在は新卒学生や若年者の就労支援をしている。