早川 菜津美さん(babystep 代表)
妊娠・出産を通して募らせてきた違和感
もともとジェンダー(社会的文化的性差)に関する問題に関心があった早川菜津美さんが、自身の団体babystepを立ち上げたきっかけは、ある署名キャンペーンでした。
育児休業中に子どもと二人きりで過ごしていたある日、ベビー用品のパッケージに書かれた「全国のお母さんを応援します」という一文を見て、早川さんは違和感を覚えたといいます。「赤ちゃんの世話をするのは、お母さんだけなの?」という気持ちが湧きあがったのです。
就職活動などでは女性であることを理由に差別を受けたと感じることはありませんでしたが、妊娠・出産を経て、性的偏見を感じることが急に増えていきました。例えば、友人に妊娠を告げた時の「仕事は辞めるの?」という何気ない一言。もし男性なら同じように聞かれることはないはず…とモヤモヤした気持ちが湧いてきました。出産後に、生まれたばかりの娘にかけられた「女の子だから…」という助産師の言葉にも「なぜ?」という気持ちを募らせたそうです。
そんなときに気が付いたベビー用品のメッセージ。いつもは「愚痴」としてこぼしていた感情でしたが、その時は違いました。夫や友人からの後押しもあり、署名サイトを使ってメッセージ変更を求めるキャンペーンを開始します。ダメ元でスタートしたキャンペーンでしたが、思った以上の反響があり5,000筆を超える署名が集まりました。署名に協力してくれた人たちの年代は幅広く、高齢の男性の「自分も子育てに関わりたかった」というコメントにも励まされたといいます。
「言われてみれば確かに…」と考えるきっかけになれば
署名キャンペーンを始めたときは、これほど多くの人からの共感を得られるとは思っていなかったので、少しびっくりしたといいます。というのも、ジェンダーに基づく偏見や差別についての話をすることは煙たがられるものと感じていて、ごく身近な人以外では、避けがちな話題だったからです。
キャンペーンサイトに寄せられたコメントの中では「これまで思ったことなかったけど、確かに変ですよね」という意見もありました。知り合いとの会話の中でも、ジェンダーや固定的な性別役割分担意識について「初めて考えた」という声は少なくなかったといいます。
このキャンペーンを通じて、「『育児=お母さん』という考えは偏見だ」とわかりやすく表明することができたそうです。その意見に同意するかどうかは人それぞれですが、「一人ひとりにとって、新しい『視点』をもってもらうきっかけになったことは確かだ。」と、手ごたえを感じているそうです。
仲間がいるからできた
早川さんたちの活動は、新聞取材やインターネットでも取り上げられましたが、その中には賛同の声だけでなく、もちろん反対意見も寄せられました。取材で顔と名前が出ているので、「怖い」と思ったこともありましたが、心強い仲間と一緒にやっていることが支えになっています。
早川さんは、友人同士の集まりだったbabystepを、きちんと組織化し活動を続けていくことを決めました。「組織化する」と言っても、一体何をしたらいいのかわからない、そんな時に女性チャレンジ応援拠点の存在を知り、相談に来室されました。女性チャレンジ応援拠点は、子ども連れでも気軽に立ち寄ることができ、しかも無料でいろいろと相談に乗ってもらえる力強い存在だと感じるそうです。
babystepがめざすのは、ジェンダーにもとづく偏見について考える視点を、多くの人に持ってもらうこと。そんな少し“硬くて真面目”な目標を実現するために“ふんわりとした優しいイメージ”で活動を進めていきたいと、早川さんはその方法を模索中です。
平成31年2月にクレオ大阪中央でセミナー「育児の“もやっと”座談会」を開催しました。
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