石橋由加さん
(看護師)
気軽に相談できるまちの保健室
石橋さんは現役の看護師として働くかたわら、「まちの保健室」で健康に関する相談を受ける活動をしています。きっかけは、大正区にあるコミュニティスペースのオーナーに声をかけられたことでした。石橋さんは30年以上看護師として働いており、外来や救命救急、リハビリ、訪問看護、高齢者施設などのさまざまな現場で看護師としての経験を積み重ねてきました。そのなかで、患者さんにとって豊かな生活をしてもらうということはどういうことだろう、その人らしい治療を受けるってどういうことだろうと考えるようになりました。患者さんそれぞれの話を聞き、疑問や不安に応え、いたわる場面が医療の現場では実現しにくいことにもどかしさを感じていました。
そして、その思いを話したところ、コミュニティスペースを開設するときにぜひ関わってほしいと声をかけられたそうです。
自分のからだをふりかえるきっかけに
「ヨリドコ大正るつぼん(※1)」で開かれる 「まちの保健室」では、相談がある人もない人も、困っていることがある人もない人も、まずは血圧を測り、何気なく話をするところから始めます。自分のからだのことを聞かれるうちに、「あ、そういえば…」と思い出したように、疑問に思っていたこと、気になっていたことを口にしてくれるようになります。一人ひとりに時間をかけて説明し、疑問や不安が解消されると「来てよかったわぁ」と言って笑顔で帰ってもらうことがやりがいになっています。そもそも血圧とは何を測っているもので、何に気を付けなければいけないのかとか、こんな症状があったときには何科に行ったらいいのか、生活習慣病とはどういうことかなど、意外と知らない人も多いと感じています。今は困っていないかもしれませんが、いざ困ったときに相談できる人がいるのは安心につながります。
話を聞いていくうちに気になることや支援が必要だと感じる場合は、「ヨリドコ大正るつぼん」に入居している福祉関連の職種の人につなぎます。ありきたりの介護支援ではなく、よってたかってみんなで何らかの解決策を考えていく、いわばお節介集団だと思っています。「でも、地域ってそういうことよね。持ちつ持たれつなのよ」と石橋さんは笑います。
DV被害を乗り越えて
実は石橋さんはかつて結婚相手からDV被害を受けていました。結婚後、身体的や精神的な暴力や看護師として働きたくても働かせてくれないなどの被害を受けましたが、ある日命の危険を感じるほどの暴力を受け、子どもと一緒に逃げました。縁もゆかりもない土地での生活は、最初は寂しさを感じましたが、一方で周りの人のありがたみも感じました。カウンセリングを受けていくなかで、自分の気持ちの整理や、これまでなかった視点を持つことができ、自分自身が再度確立されていったと感じたそうです。思えば、周りのイメージや求められている像に応えなければと感じてきたと当時を振り返ります。そんな自分が間違っていたということではなく、自分も人も人間関係も整理して考えていく過程で、それで自分はもちろん、周りの人を一人ひとり大事にしたいと強く思うようになりました。最初の家族では望んでも得られなかったものもあるけれど、その後に自分らしい人間関係をつくることができ、その思いを補うことができるかもしれないと思っています。
「いずれは古民家を買って、自分でDIYして、みんなの居場所をつくりたいのよ。ヤギを飼って、鶏を放してある庭があってね・・・畑で獲れたものをみんなで料理をして、しゃべりながら食べるの。来たい人誰でもおいで、という感じで。」と楽しそうに未来を語る石橋さんの笑顔がとても素敵でした。
(※1)ヨリドコ大正るつぼん…地域や行政とつながり、アート×福祉×小商いの連携で多世代が緩やかにつながる相互扶助の拠点。
https://orga-works.co.jp/rutsubon/